2020年5月12日 【照会先】 認定NPO法人 タートル 理事長 松坂治男 電話:03-3351-3208 「新型コロナ問題にともなう視覚障害者の在宅勤務等の状況」アンケート調査結果の概要と総括   認定NPO法人タートルでは、昨今の新型コロナウイルス感染症問題を機に急速に拡がっている在宅勤務(いわゆるテレワーク)について、 主として事務職等の立場で就労する視覚障害者がどのような状態にあるかを把握するために緊急アンケート調査を実施しました。 募集期間が約1週間と短かったにもかかわらず、多くの皆様にご回答いただき、誠にありがとうございました。 調査結果の概要ならびに総括について、以下の通りご報告します。 【調査方法等】 対象者:タートルMLに参加している視覚障害者(官公庁・民間企業すべての職場に勤務する人、自営業者を除く) 調査の方法:タートルMLにアンケートを投稿し、eメールで回答を回収した。なお、他団体のMLにも転送のうえ、回答のご協力をいただいた。 調査期間:2020年4月19日(日)〜26日(日) 【回答者の概要】 ・回答者数:80人 ・性別:男性51人(63.8%)女性29人(36.3%) ・年齢層:50歳台34人(42.5%)40歳台23人(28.8%)を中心に、30歳台以下が12人(15.0%)60歳台以上が11名(13.8%) ・居住地:関東圏41人(51.3%)、関西圏29人(36.3%)、ほか北海道から九州の10名(12.5%) ・勤務先:民間61人(76.3%)、官公庁16人(20.0%)、その他3人(3.8%) なお、民間企業の従業員規模は、100人以下 9人(14.8%)、101〜500人 17人(27.9%)501〜1000人 4人(6.6%)1001人以上 28人(45.9%)等 ・社員、職員区分:正社員・職員44人(55.0%)、契約社員・職員13人(16.3%)、管理職・専門職11人(13.8%)、パート・アルバイト9人(11.3%)等 ・仕事内容:事務職53人(66.3%)、ヘルスキーパー・病院、介護施設等18人(22.5%)、教職員6人(7.5%)等 ・見え方の程度:ロービジョン40人(50.0%)、全盲23人(28.8%)、ほぼ全盲 17人(21.3%) 【調査結果:単純集計】 <勤務状況> ・「新型コロナ問題にともなう勤務状況」について聞いたところ、「在宅勤務が始まった」と答えたのは45人(56.3%)、「自宅待機・一時帰休」18人(22.5%)だった。 次いで、「従来通り勤務」10人(12.5%)、「時差出勤・時間短縮・交替勤務等」5人(6.3%)、「もともと在宅勤務」2人(2.5%)であり、「雇止め・解雇」と答えた人はいなかった。 <給与等の待遇面> ・「在宅勤務が始まった」と答えた45人に「給与面の変化があったか」聞いたところ、「従来と変わらない」35人(77.8%)が最も多かった。 次いで、「残業ができなくなり時間外手当がなくなった」3人(6.7%)、「説明がないので不明」3人(6.7%)、何らかの収入減となった人が3人(6.7%)等であった。 ・「自宅待機・一時帰休」と答えた18人に「給与等の待遇」について聞いたところ、「今のところ、特別休暇として、通常の給与が支給される」が11人(61.1%)で最も多かった。 次いで、「説明がないので不明」4人(22.2%)、「平均賃金の6割の休業手当が支給」、「給与・手当等は全く支給されない」等であった。 ・「勤務先が休業していて、自宅待機」と答えた3人に「給与等の待遇」について聞いたところ、「平均賃金の6割の休業手当が支給」、「給与・手当等は全く支給されない」等であった。 ・「時差出勤・時短出勤」と答えた5人に「給与面の変化があったか」聞いたところ、「従来と変わらない」3人(60.0%)、「残業できなくなり、時間外手当がなくなった」等であった。 <在宅勤務におけるアクセシビリティ> ・「在宅勤務におけるアクセシビリティ」について聞いたところ(複数回答可、この項目の回答者数は58人)、 「音声PCで職場と同様の環境が担保されている」と答えたのは29人(50.0%)、「文字拡大等で職場と同様の環境が担保されている」と答えたのは18人(31.0%)だった。 次いで、「自宅では同僚に聞くことができないので困っている」7人(12.1%)、「文字拡大等で職場と同様の環境が担保されていない」6人(10.3%)、「音声化できない部分が増えて困っている」5人(8.6%)、 「在宅勤務を希望したが環境が整備できず断念した」4人(6.9%)、「ネットワークシステムが音声化できずに困っている」4人(6.9%)、「パスワードによるログインが音声化できない」等であった。 また、「その他」は21人(36.2%)であった。 ・「その他」と答えた21人の記述内容をまとめると以下のようになる。 ○アクセシビリティが不十分:「自宅にJAWSがないのでWindowsナレーターを使っているが、ショートカットキーが使えない」「音声が出ないところがある」「時々音声ソフトが起動しない」 「晴眼者はアクセスできるが自分にはできないネットワークがあり、同僚に自宅メールに転送してもらっている」 「自宅パソコンで会社のメール(アウトルック)に入って受発信するときに、レスポンスが悪い」「自宅では点字ファイルを処理できない」等 ○事実上在宅での業務は困難:「視覚障害に関係なく、セキュリティの観点からパソコンの外部持ち出しが認められていない」「セキュリティの観点から自宅での音声パソコンの使用が認められていない」 「自宅のサーバーが必要なサーバーにアクセスできない」「社外からは社内イントラにアクセスできない」「会社独自のアプリを立ち上げてメール等操作するため、自宅のパソコンでは対応できない」 「テレワークになっていない」「晴眼者も含め、在宅勤務の環境が整っていない」等 ○これからシステム構築:「テレワークがまだ導入されていないので、今後の検討課題である。健常者が最優先される可能性があり、視覚障害者への合理的配慮は後回しにされてしまう気がする」 「在宅勤務のシステム構築中で、アクセシビリティが確保されるかわからない」等 ○在宅勤務の方が楽:「自宅ではイヤホンをしなくてよく、耳への負担が少なくて助かっている」「職場では拡大・反転のみでパソコン操作をしているが、自宅では音声読み上げも使えるので仕事がしやすい」等 <在宅勤務または自宅待機についての感想> ・「在宅勤務または自宅待機についての感想」を聞いたところ(複数回答可、この項目の回答者数は66人)、「運動不足になっている」48人(72.7%)、「同僚等との会話がないので楽しさが減った」30人(45.5%)、 「通勤しなくてよいので楽になった」24人(36.4%)だった。 次いで、「白杖を使っての通勤のカンが鈍らないか心配である」18人(27.3%)、「家族がいたりするので仕事に集中できない」13人(19.7%)、「同僚等のことを気にしなくてよいので気楽である」11人(16.7%)、 「精神的に落ち着かずいらいらしている」11人(16.7%)、「仕事がなくなり失職するのではないかと不安」11人(16.7%)であった。さらに「その他」は15人(22.7%)であった。 ・「その他」と答えた15人の記述内容をまとめると、以下のようになる。 ○仕事や在宅勤務体制の現状に関するもの:「職場のネットワークにつながってないとできない業務がほとんどなので、短期ならいいが長期になると見直しが必要」「本来の業務は出勤しなければできないため、 在宅勤務でできる業務は限られる」「もともと在宅勤務体制がない中で急遽始めたので手探り」「在宅といわれてもできることを探すのが難しい」「完全に業務を止めているわけではないので、自宅待機日と出勤日がある。テレワークが導入されている企業が羨ましい」等 ○今後についての言及:「今後のことも踏まえ、事態終息後、テレワークできる環境の設置を交渉する予定」「今後、自然災害にも備え、在宅勤務できる環境を整える必要あり」 ○視覚障害に関するもの:「他の社員は在宅勤務でもつかえるが、音声ソフトがシンクライアントに対応していないために一人だけ使えず、情報についていけないのではと疎外感を感じる」「他の人は1日おきなど出勤しているのに、(自分は)上司から在宅勤務と言われた」等 ○業務に関するもの:「(病院業務で)今までのサポートのやり方が難しいので、今後のやり方を考える必要がある」「(学校業務で)オンライン授業の必要性があるが、先生方のスキルに差がある」「(ヘルスキーパー)今後の業績によって、障害者採用面での影響が懸念される」等 ○メリットへの言及:「入社して間もないので、業務の復習や整理ができてありがたい。出社している同僚のことを考えると一層がんばらないと、と集中力が高まっている」「普段できないことに取り組めるメリットもある」等 ○感情を示す言葉としては、「見通しが立たず、不安」「これでいいのか不安」「継続雇用してもらえるか不安」「仕事のことを考えるとストレス」「(同じ業 務でも在宅だと)時間がかかってストレス」「腹が立つ」「やる気が減退」等が見られた。 【総括:タートルからの提言】 〜求められる視覚障害者に対する万全の情報アクセシビリティ〜   視覚障害者が在宅勤務を円滑に遂行するには、職場と同様の情報アクセシビリティの確保が欠かせない。今回のアンケートではこの点が不十分であることが読み取れる。  情報アクセシビリティについてたずねた問3では、「文字拡大等で職場と同様の環境が担保されていない」「音声化できない部分が増えて困っている」「在宅勤務を希望したが、環境が整備できず断念した」 「ネットワークシステムが音声化できずに困っている」等の回答が散見された。「その他」の自由記述では、職場と自宅の環境の違い等から来るアクセシビリティの不十分さを指摘するコメントや、セキュリティ上、職場のネットワークにアクセスできない、 これからシステムを構築するため、どうなるか、わからない等のコメントが多く寄せられた。さらに、アクセシビリティが未整備のため、晴眼者が在宅勤務しているのに、出勤や自宅待機を余儀なくされている視覚障害者が数名存在することも判明した。  以上、視覚障害者の在宅勤務における情報アクセシビリティについて、指摘されている問題を整理し、要望・提言のかたちにまとめると以下の通りである。 (1)自宅と職場の環境を同じにして欲しい(例えば職場と同じ音声ソフトや文字拡大ソフトを搭載したPCの貸与など)。 (2)職場独自のネットワークに、円滑にアクセスでき、音声で操作できるようにして欲しい。 (3)これからテレワークシステムを構築する職場には、視覚障害者のアクセシビリティを十分に考慮して欲しい。  以上